社内に蓄積された売上実績、商品情報、在庫、入出荷データを活用して、営業提案や需要予測に役立てたい。
一方で、機密情報や取引先情報を扱うため、外部のクラウドAIにそのままデータを送ることには不安がある。
このような相談は、卸売業、専門商社、製造業、建設業、地域企業などで増えています。
本記事では、生活関連商品を扱う専門商社からの相談をもとに、オンプレミスAI・RAG基盤をどのように検討し、どの順番で導入判断を進めるべきかを整理した導入検討事例を紹介します。
相談内容
相談企業では、自社サーバー内に売上実績、商品マスタ、入出荷情報、在庫関連データが蓄積されていました。
これまでは、担当者が基幹システムや表計算ファイルを確認しながら、前年実績、季節要因、得意先ごとの傾向を見て営業提案を行っていました。
しかし、商品数や取引先が増えるにつれて、次のような課題が出ていました。
- 過去の売上実績を探すのに時間がかかる
- 商品別、得意先別、季節別の傾向を営業担当者が個別に調べている
- ベテラン担当者の経験に依存している
- 在庫や入出荷の情報を営業提案に活かしきれていない
- 社内データをAIで活用したいが、外部送信には不安がある
- 既製品やパッケージをベースに、短期間で検証したい
- 将来的には他システムとの連携も視野に入れたい
最終的には、150〜200名規模の社員がPCから利用することを想定していました。
課題
この相談の本質は、「AIを入れたい」ということではありません。
本当の課題は、社内に眠っているデータを、営業・在庫・需要予測の意思決定に使える状態にできていないことです。
1. 社内データがあるのに、すぐ使える形になっていない
売上実績や入出荷データは存在していても、担当者が自然な言葉で質問して、すぐに回答を得られる状態ではありませんでした。
たとえば、次のような質問にすぐ答えたいという要望がありました。
- 昨年同時期に売れた商品は何か
- この得意先に提案すべき商品は何か
- 季節要因で需要が伸びやすい商品は何か
- 在庫状況を踏まえて優先的に提案すべき商品は何か
- 過去の出荷傾向から注意すべき欠品リスクはあるか
このような問いに対して、毎回担当者が複数の資料を確認していては、営業スピードが落ちます。
2. 機密情報を外部AIに渡しにくい
専門商社や卸売業では、取引先別の販売実績、価格情報、仕入れ情報、在庫情報など、外部に出せないデータを扱います。
そのため、クラウド型AIをそのまま利用するのではなく、自社環境内で処理できるオンプレミス型AIや、閉域性を重視したAI基盤を検討する必要がありました。
3. スクラッチ開発ではなく、パッケージベースで検討したい
最初から完全な独自開発を行うと、費用も期間も膨らみやすくなります。
今回のように情報収集段階では、まず既製品やパッケージをベースに、何ができるのか、どこまで自社データを活用できるのか、費用感はどの程度かを見極めることが重要です。

4. 需要予測と営業支援を同時に求めると複雑化しやすい
需要予測、営業支援、RAGチャット、社内ナレッジ検索は、それぞれ似ているようで目的が違います。
目的を整理しないままAI基盤を選ぶと、導入後に「何に使えばよいか分からない」という状態になりがちです。
そのため、BizDXAIでは最初にユースケースを分けて整理しました。
提案した解決方針
BizDXAIでは、オンプレミスAIの導入をいきなり本番展開するのではなく、段階的に検証する構成を提案しました。
重要なのは、AI基盤を入れることではなく、営業成果と業務効率につながる使い方を先に決めることです。
Phase 1:利用目的を整理する
最初に、AIで実現したいことを3つに分けます。
1つ目は、社内データ検索です。
営業担当者が自然な言葉で質問すると、過去の売上実績、商品情報、在庫関連情報、社内資料をもとに回答を得られる状態を目指します。
2つ目は、営業支援です。
得意先別の過去実績や季節傾向をもとに、次に提案すべき商品候補や注意点を整理できる状態を目指します。
3つ目は、需要予測です。
過去の販売実績や出荷傾向をもとに、今後の需要変動を把握し、在庫や仕入れ判断に役立てることを目指します。
この3つを一度に完成させるのではなく、まずは社内データ検索と営業支援から始める方が現実的です。
Phase 2:オンプレミスAI・RAG基盤を選定する
次に、パッケージベースで導入できるAI基盤を比較します。
選定時に見るべきポイントは、製品名やAIモデルの性能だけではありません。
次の観点が重要です。
- 自社サーバーまたは閉域環境で運用できるか
- Windows、MacのPC利用に対応できるか
- 150〜200名規模の利用に耐えられるか
- 日本語文書や業務データを扱いやすいか
- RAG構成に対応しているか
- 権限管理ができるか
- ログ管理ができるか
- 社内データを外部送信しない設計にできるか
- 将来的なAPI連携が可能か
- 導入後に自社側で拡張しやすいか
今回のような企業では、最初から独自AIを作るよりも、パッケージを土台にして、社内データとの接続、検索対象の整理、権限設計、回答品質の調整を行う方が現実的です。
Phase 3:小さくPoCを行う
本番導入前に、まず一部データだけで検証します。
たとえば、次のような範囲に絞ります。
- 一部の商品カテゴリ
- 一部の得意先
- 過去1〜2年分の売上実績
- 商品マスタ
- 営業資料
- よくある問い合わせ資料
このデータを使って、RAG型の社内AIがどの程度実用的な回答を返せるかを確認します。
PoCで見るべきポイントは、AIがそれらしい回答を出すかどうかではありません。
実務で使えるかどうかです。
具体的には、以下を確認します。
- 回答の根拠が確認できるか
- 古い情報と新しい情報を区別できるか
- 権限のない情報を出さないか
- 営業担当者が使いやすいか
- 回答が業務判断に使える粒度か
- 誤回答が起きた時に検知・修正できるか
Phase 4:営業支援・需要予測へ広げる
社内データ検索が安定した後に、営業支援や需要予測へ広げます。
たとえば、営業担当者が次のように質問できる状態を目指します。
「昨年の同じ時期に、この得意先で売れた商品を教えてください」
「在庫状況を踏まえて、今月提案すべき商品候補を出してください」
「季節要因で売上が伸びやすいカテゴリを教えてください」
「欠品リスクがありそうな商品を確認してください」
このような使い方ができるようになると、AIは単なるチャットツールではなく、営業判断を支援する仕組みになります。
技術構成の考え方
オンプレミスAI・RAG基盤では、次のような構成を想定します。
データ層
売上実績、商品マスタ、在庫、入出荷、営業資料、社内文書を整理します。
すべてのデータを一度にAIへ渡すのではなく、用途ごとに対象データを分けます。
- 営業支援用データ
- 商品検索用データ
- 需要予測用データ
- 社内FAQ用データ
- 管理者向け分析データ
データの整理が不十分なままAIを導入しても、回答品質は安定しません。
RAG基盤
RAGは、社内文書や業務データを検索し、その結果をもとにAIが回答する仕組みです。
重要なのは、AIにすべてを覚えさせることではなく、必要な情報を検索し、根拠を持って回答できるようにすることです。
そのため、検索対象、データ更新頻度、参照権限、回答ログを設計する必要があります。
アクセス権限
営業担当者、管理職、経営層では、見られる情報が異なります。
たとえば、全社売上や利益に関わる情報は経営層だけに見せる。
担当顧客の情報は営業担当者単位で制御する。
このような権限管理を行わないと、便利なAIほど情報漏えいリスクが高くなります。

管理画面
AI基盤は、利用者向けのチャット画面だけでなく、管理者向けの画面も必要です。
管理者は、次のような情報を確認できる必要があります。
- 利用者数
- 質問数
- 回答ログ
- 検索されたデータ
- 回答できなかった質問
- よく使われるキーワード
- データ更新状況
- 権限設定
- エラー状況
これにより、AIの回答品質を継続的に改善できます。
将来連携
初期段階では他システム連携を行わなくても、将来的に基幹システム、在庫管理、営業管理、BIツールなどと連携できる構成にしておくことが重要です。
最初からすべてを接続すると複雑になります。
まずはCSVや限定データ連携から始め、利用価値が確認できた段階でAPI連携へ広げる方が安全です。
導入で期待できる効果
オンプレミスAI・RAG基盤を段階的に導入することで、次の効果が期待できます。
- 社内データを外部送信せずに活用できる
- 営業担当者が過去実績を探す時間を減らせる
- ベテラン担当者の経験を共有しやすくなる
- 得意先別の提案精度を高めやすくなる
- 在庫や入出荷情報を営業提案に活かせる
- 需要予測や欠品リスク確認の土台を作れる
- 情報収集段階でも費用感と導入範囲を整理できる
- パッケージベースで導入し、自社側で拡張しやすくなる
特に重要なのは、AI導入そのものではなく、営業・在庫・仕入れ・経営判断に使える情報基盤を作ることです。
BizDXAIの考え方
BizDXAIでは、AIを目的として提案しません。
AIは手段です。
目的は、売上機会を逃さないこと、営業担当者の調査時間を減らすこと、在庫判断を早くすること、経営判断に必要な情報を見える化することです。
オンプレミスAIやRAGは、機密情報を扱う企業にとって有効な選択肢です。
ただし、製品を入れるだけでは成果は出ません。
どのデータを使うのか。
誰が使うのか。
何を判断したいのか。
どこまでをAIに任せ、どこからを人間が判断するのか。
この設計が成果を左右します。

まとめ
オンプレミスAI・RAGの導入では、最初から全社展開を目指すよりも、社内データ検索、営業支援、需要予測を段階的に整理することが重要です。
特に、専門商社や卸売業のように、売上実績、商品情報、在庫、入出荷データを多く持つ企業では、AI基盤をうまく設計することで、営業提案や在庫判断の質を高められる可能性があります。
BizDXAIでは、AI製品の導入そのものではなく、業務成果につながるAI活用範囲の整理、データ構成、権限設計、段階導入計画を支援します。
オンプレミスAI、RAG、社内データ活用、営業支援AIを検討している場合は、まず現在のデータと業務課題を整理することから始めるのが現実的です。
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